特集・連載

ライター:伊藤 ケンジ

2026.10.13

本とビール・カモシカ開業日記 #004

本とビール・カモシカ開業日記
#004

2026年2月、飯能大通り商店街にオープンした「本とビール・カモシカ」。店主の伊藤ケンジが開業までのおよそ1年間の日々を綴った「開業日記」です。

「本屋についての本」を読みまくる

本屋を始めると決めてから、本屋について書かれた本をとにかく読み込みました。僕は子どもの頃から何かを始めるときには、まず本を読みました。

インターネットのない時代ですから、学校の図書室、地域の図書館、地元の本屋を回ってそのことについての本を探します。

勢いで始めるということがあまりできない性質(たち)で、とにかくやってみるというタイプの子らが羨ましくも感じましたが、仕方ありません。臆病なんですね。

今はウェブ上で無料の情報が手に入ります。ほとんど無限と言っていいくらいに。でも僕はやっぱり本を読みます。もちろんインターネットも駆使しますが、できるだけ本を読むようにしています。

本は出版されるまでに、編集者、出版社など複数の人の手が入るので、その分信頼できる可能性が高いからです。

もちろんそうでない本もありますし、ウェブ上にある情報がすべてダメというわけではありませんが、確率の話ですね。

あと、やっぱり本を本棚にずらっと並べたり、机に積み上げたりすると勉強してるカンジがするじゃないですか。やってる感を醸し出すとか。自己暗示をかけるというか。

こう書くとどんどん底の浅さがバレてしまいますが、仕方ありません。基本的に軽薄なんですよ。

いざ図書館や本屋で「本や本屋についての本」を探すと、想像以上にたくさん出版されていました。

閉店していくまちの書店のエピソード、名物書店員さんの話、個人書店を立ち上げた人の手記、開業までの解説本まで、片っ端から読みました。

なかでもよく読まれているのが、荻窪『本屋Title』店主・辻山良雄さんの『本屋、はじめました』。そして下北沢『本屋B&B』の内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』です。

本屋を始めようとする人は、この2冊にはたいてい目を通しているのではないでしょうか。

辻山良雄さんは荻窪の『本屋Title』の店主。元は大型書店であるリブロの書店員をされていた方で、いわば本屋のプロが独立したケースです。

自分の周辺に置き換えると、広告代理店のデザイナーが独立したり、大手ビールメーカーのブルワーが個人でブルワリーを始めたりというやつですね。

内沼晋太郎さんは下北沢の『本屋B&B』の共同経営者であり『NUMABOOKS』というチームの主催者として出版やブックコーディネートなど、本にまつわる様々な活動をされています。

自分の周辺に置き換えると、広告で言うと広告を超えたあらゆる「表現」を追求した佐藤雅彦さん、ビール業界だとイラストレーターでビール伝導師の藤原ヒロユキさんなどでしょうか。

内沼さんは少し射程が長いというか、本屋というだけでなく、出版も含めた業界全体を俯瞰しているように感じます。

余談ですが、僕がクラフトビールに興味を持った頃は、まだクラフトビールについて書かれた本がほとんどなくて困りました。特につくり手側からの発信がほとんどないのです。

酒税法でガチガチに固められた業界なので、個人の参入をそもそも想定していないし、日本ではHomeBrewといういわゆる自家醸造が固く禁じられているので、つくり方もわかりません。

またビールの醸造を教える学校もないため、ブルワーになるには大手ビール会社に新卒で入社してからドイツの醸造学校に行くか、どこかのブルワリーに雇ってもらって実地で覚えて独立するか、くらいしか選択肢がなかったのです。

仕方がないので『自分でビールを造る本 The Bible of Homebrewing』(チャーリー・パパジアン著/技報堂出版)という本を買って、アメリカで盛んなホームブリューでのビールのつくり方を勉強したものです。

あくまでもベンキョウするだけですよ。実際につくっちゃダメです、絶対。

かなり話が逸れました。いわゆる「本屋本」が思ったよりたくさんあった、という話ですね。

読んでわかったのは、独立して個人書店を始める人は、書店員や図書館員、編集、出版といった本にまつわる仕事の経験者がほとんどだということ。むむむ。

とはいえ、他分野から始めた例が皆無ではないのも事実です。また取次大手トーハンが個人書店向けのサービス「HONYAL」を始めるなど、追い風も感じます。

一方で気になるのは、本屋を始めたい人ばかりが増えて、読み手が増えないままになってしまうこと。

クラフトビールの世界でも同じことが起きていて、つくり手ばかりが増えて飲み手が増えないと、業界は先細ってしまいますからね。どうしたらいいんでしょう?

それにしても読めば読むほど、本屋というのは大変だということがわかります。生き残りをかけてみなさんいろいろな工夫をしています。

「紙の本を残したい」「本屋という共有地を残したい」「読書という文化を残したい」…そんな凄絶な思いがどの本にもあふれていて、本当にずぶの素人である僕がふらふらと迷い込んでいいのだろうか?と自問します。

…が、まぁなんとかなるでしょう。クラフトビールのときも最初はそう思ったものです。

結局、この2か月で読んだ本屋についての本は、数えてみると37冊。希望を持たせてくれる本もあれば、悲観的になってしまう本もありました。

それでも、まだまだ読まなきゃいけない本がありそうです。

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記事を書いた人:
伊藤 ケンジ

広告業界からブルワーに転身し、2016年CARVAAN BREWERY立ち上げに参加するために飯能へ移住。

2019年〜佐賀県でのブルワリー立ち上げを経て2024年飯能に戻り、クラフトビールが飲める本屋「本とビール・カモシカ」を準備中(2025年12月オープン予定)。

  • 醸し家〜クラフトビール醸造家〜
  • アートディレクター
  • 「本とビール・カモシカ」店主

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