2014年「明日戦争がはじまる…
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自然とまちのバランスがよい飯能エリアは創作の場として人気が高く、たくさんのアトリエが点在しています。せっかく飯能を選んでくれたのだから、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。という想いから始まった「飯能クリエイターファイル」。第9弾は版画家の石川丘子さんです。
出来上がりが想像できないから、おもしろい
彫刻刀で板を彫り、絵の具をつけて刷る「版画」。みなさんも小学校のころ図工の時間にやったのではないでしょうか。石川さんは、その版画の技法を用いて作品をつくるアーティストです。
さっそく作品を見せていただきました。山の風景にカラフルな模様がかかった不思議な一枚。はっきりと見えないからか、目を凝らしてじっと見入ってしまいます。記憶の中のような、夢の中のようなふわふわしたイメージ。どんな技法で描かれているのでしょうか。
「特別なことはしていませんよ。木の板を掘って、色をつけて、刷る。小学校でやったのと同じです」
石川さんの版画は、まず木の板に直接絵を書き込みます。それをトレーシングペーパーに写し、他の板にも描きます。あとは色ごとに彫るのですが、必ずしも絵に忠実に彫っていくのではなく、元の絵に重ねたい模様やパターンも彫り込んでいきます。石川さんは「思い通りにならないところがおもしろい」と言います。
絵の具で描く絵画とは違い、木目のある板を彫刻刀で彫るのだから写実性の限界があり、出来上がったものはどうしても頭の中にあるイメージとは異なってきます。でも、その制限こそが版画のおもしろいところなのです。
きっかけは年賀状
石川さんと版画の出会いは小さい頃に家族みんなで彫った年賀状でした。とにかくそれが楽しくて、プリントゴッコが一世を風靡したときも彫刻刀で彫り続けていたのだそうです。
その版画愛は大人になっても消えることなく、大学は多摩美術大学絵画科の版画専攻で、大学院まで進学。2005年に初個展を行い、2010年には中国杭州の大学院で学びました。
留学時は中国の水墨画の世界に感銘を受け、モーリス・ルイスやマーク・ロスコなどの抽象画にも影響を受けますが、版画という技法からは離れることなく、むしろその表現を取り入れて作風に磨きをかけています。
そして、2005年の個展を皮切りに東京や大阪のほか、中国や韓国、スウェーデン、インドなど世界中で作品を展示。気がつけば20年近くのキャリアを重ねてきました。
時間も場所も飛び越えて重ねる
石川さんの作品を注意深く見ているとあることに気がつきます。それは、メインの被写体がないのです。そのせいか、鑑賞者は作品の隅々まで自分の好きなところを旅するように観ることができます。
「絵の中をぐるぐる巡るような作品をつくりたいなと。作品のテーマは決めますが、出来上がりは予想できない方がいい。決まった完成像に向かってつくると『創作』ではなくて『作業』になってしまいますから」
つくり始める前に描くラフスケッチもあくまでざっくり。刷りの工程でも濃淡をつけてみたりするのです。そして最終的に刷り上げるのは1枚から多くて5枚。
版画だから刷ろうと思えばたくさんできるけど、あえて数はつくらないのだそうです。大量生産が当たり前の世の中で、その希少性も作品としての価値になるのかもしれませんね。
また、新型コロナウィルスの影響も作風に変化を与えているのだそう。以前はチベットの山やインドの風景、訪れた街並みをベースに作品をつくっていたけれど、昨今はなかなか旅に出ることができません。すると石川さんの目線は身近なものへと移っていきました。
下の作品はふだん使っているカップをベースに、今はもうつくられていないテキスタイルの柄を重ねたもの。今あるものと記憶にあるもの、遠くにあるものと近くにあるもの。石川さんの作品は時間や場所を飛び越えて、今まで積み重ねた経験すべてが作品に表れているようです。
毎回恒例の質問ですが、最後に飯能にアトリエを構える利点をお聞きしました。
「ホームセンターが近いことですかね。あと、安くて広いアトリエが借りられること。あ、すぐ近くに川や山があることもよいところです。自然という圧倒的なものを感じることで、自分の中の自我が大きくなりすぎないようにできるから」
【個展情報】
石川丘子個展『水を舐める』
2022年4月12日~24日 12時~19時
※最終日は17時まで(月曜休廊)
TOKI Art Space
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