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2022.01.04

飯能クリエイターファイル(No.8)詩人・宮尾節子さん

飯能クリエイターファイル(No.8)
詩人・宮尾節子さん

2014年「明日戦争がはじまる」という一編の詩をTwitter上に投稿したことをきっかけに世に知られることになった詩人・宮尾節子さん。

2019年にはクラウドファンディングで集めた資金をもとに詩集『女に聞け』(響文社)を刊行。近年では「ポエトリーリーディング」として、ロックやヒップホップといった音楽のアーティストと一緒にライブハウスなどで朗読を行っています。

飯能に住むアーティストを紹介する「飯能クリエイターファイル」。8回目の今回は、宮尾さんの詩作にかける想いを伺いました。

言葉をあなたの味方にしてほしい

高知県出身の宮尾さんが京都・東京での暮らしを経て、飯能に移住したのは今から約20年前のこと。ユニークな教育で知られる中高一貫校「自由の森学園」に、子どもが入学することがきっかけでした。

小学生の頃から詩作を続けてきた宮尾さんですが、移住後は奥武蔵エリアの新聞『あおぞら通信』(朝日新聞の折込)で10年ほど詩のコーナーを担当。さらに地元の文芸誌『文藝飯能』(発行:飯能市教育委員会)では、子どもたちから寄せられるジュニア詩の選考委員を務めています。

「送られてくる詩を読むと、ものにはいろいろな見方があることに気付かされます。例えば「氷が溶けたら、何になる?」という問いに「春になる」と答えた子どもがいました。大人なら<水になる>が正解と思ってしまいがちですが、素敵な表現ですよね。善悪や正誤だけでなくもっとものごとに多様な見方を持てたら、厳しい時代の切羽詰まった時でもほんの何秒か笑えたり、息継ぎができたりする。気持ちをチェンジできると思うんです。その多様性を見せるのが詩歌の世界です」


自作の詩をまとめて自費で冊子の発行もしています

詩というとどこか難しい芸術表現というイメージを持っていたり、綺麗に整った形式があると考えたりする方もいらっしゃるかもしれません。対して宮尾さんは「詩は自由です。自分の好きな順番に言葉を並べて、文法的にはめちゃくちゃでも気持ちがよく届くよい詩になったりします。そこが散文と違う詩の自由で魅力的なところです」と語ります。

「こんなふうに書けばいいだろう、ではもったいない。詩を書く人には、言葉を味方にしてほしい。他人が気に入るような言葉ばかり書き並べても、言葉は自分の味方になりません。孤独な時でも、表現はいつでもどこまでも付き合ってくれます。とても、心強い相棒です。だから、言葉を自分の味方にしてほしいのです」

そして「言葉は鍛えられるもの。言葉を鍛える間に、人間も鍛えられる」と宮尾さんは説きます。

表現を誰かに差し出すと「これでは届かない」「これでは浅い」といったフィードバックを得ることができます。そうして表現を何度も繰り返していくうちに、他者に届く表現ができるようになります。その時に振り返ると人間として成長していることになる、という意味です。

宮尾さんの話の端々から、表現の大切さ、そして表現の核にある言葉の大切さが染み出してきます。

「明日戦争が始まる」の背後にあるもの

「明日戦争がはじまる」は、第2次安倍政権が進める安保法制や改憲の動きへの危機感を背景にインターネット上で広がりました。宮尾さんの詩のテーマは、(護憲文脈での)「平和」についてなのでしょうか。そんな問いに対して宮尾さんは次のように語ります。

「私の詩のテーマは、<命を大切に>ということです。特に政治的に強いイデオロギーがあってつくっているわけではありません。私は高知の小さな田舎町の出身ですが、町を歩けば<せっちゃん>と声をかけられる土地でした。対する都会は匿名性の社会です。歩いている人はどこの誰だかわからない。個人としては放っておいてくれる自由さはあるけれど、個人が消えたとたんに人間的なものが麻痺していく感じがするんですよね。そして、人を人と思わなくなることは、戦争を戦争と思わなくなる心理と同じことじゃないか、とふと思ったんです。そして、人としての思考停止に怖さを感じました。都会暮らしのわたしのそんな連想が、いつのまにか<明日戦争がはじまる>という詩になっていたのです」

Twitter上で拡散された経緯から、宮尾さんはネットの中の言葉、ネット社会に生きる人間の心理についても考えてきたそうです。

「SNSの時代になって政治的な立場での分断が進んでいると言われますが、イデオロギーで分断される前の人の気持ちに届け、との願いを込めて私は詩をつくっているのかもしれません。ネットの世界は心の世界だと思います。ある時、気がつきました。<心は負けられないんだ>と。心が負けたら人は生きられない。だから、誰もが自分の心を必死に守って<生きよう>として、ネットでの泥沼の争いが起こるんだと。詩も心を守る言葉です。ですが敵対する言葉ではなく、分断を超えるような言葉を目指したいです。時代はきな臭い方に傾いている感じはしますが、この時代に私や詩歌にできることは、私たちを取り込もうとする大きな言葉に抗って、小さな命に宿る小さな声をあげ続けることだと思っています」

文化に対する懐が広いまち・飯能

最後に、詩人の視点で考える飯能の魅力について伺ったところ「文化に対する懐が深い」という答えが返ってきました。

「戦災・震災の疎開先として、飯能には詩人の蔵原伸二郎や千家元麿、中西悟堂など多くの文化人が地元の名士たちの支援を受けて暮らしていました。当時から変わり者を面白がるという文化的な風土もあったようです。戦後の物資不足の時代にも、東京の有名文芸誌でさえモノクロ印刷ホチキスどめで発行しているのに、飯能では『飯能文化』というカラーの文芸誌が発行されていました。戦後の荒廃した社会を救うには文化しかない、という地元有志の人々の意識の高さと心意気をうれしく感じますね」

京都で暮らした時期も長かった宮尾さんにとって、飯能の街並みには京都にも通じる風情を感じるそうです。また、市街地から入間川を挟んで南側の加治地区に住む宮尾さんにとって、自然との近さも魅力なのだとか。山と街と里が近接したライフスタイルも、京都に似ているのかもしれません。

「田舎のいいところと都会のいいところが上手にミックスした、<ほどほどの感じ>の居心地がいいですね。都内の友人にすすめて、実際に引っ越してきた人もいます。ただし、あまり宣伝して人が増え過ぎるのも、よしわるし、なので。それもほどほどのバランスで」

そう言って笑う宮尾さん。本当に大切にしているお店は大切な人にしか教えない。飯能という地域はそんな大切な人の思いに守られてきたまちのようです。


お気に入りの仏・プジョーのシティサイクルと一緒に

2022年最初の「はんのーとレディオ」のゲストは、宮尾節子さんです。1月7日(金)19時オンエア!

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記事を書いた人:
オオタケ ユウスケ

埼玉都民のための「ライフタウン」メディア「西埼玉暮らしの学校」を主催する地域の編集者。西武池袋線「西所沢」で土曜日だけ開店する小さな書店「サタデーブックス」を経営。埼玉ハンノウ大学の運営ディレクターとしても活動中。

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