「いのち」をテーマに歌う飯能の…
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特集・連載
愛らしくてどこか温もりのある「ムシャヒナ人形」、カラフルで暮らしに溶け込むようなカレンダー「コノミノコヨミ」。「日々の暮らしに寄り添えるアートを」がコンセプトの近正匡治(まさはる)さんと千広(ちひろ)さんが営む「彫刻屋 近正(こんしょう)」。
山間にあるアトリエを訪れ、お話を伺いました。
飯能にきたきっかけは?ー
「東京芸術大学大学院彫刻科(以下:芸大)を修了した次の年に、自由の森学園(以下:自森)の助手に誘われたのがきっかけかな」と話す匡治さん。実家は町田の団地。山の方に住んでみたいと感じていたそう。千広さんは岐阜県の出身。芸大大学院彫刻科の学生時代、一緒に飯能に引っ越しました。
飯能にきて、よかったことは?ー
「自然があってほどよいところ。元加治に住んでいたから、一本で都心に出られるところもよかったよね」と話すのは千広さん。彫刻ができる工房が得られる環境、ものづくりの人も多くコミュニテイが多いところ、ゆったりしている空気は製作に影響を与えているそうです。
彫刻屋 近正:匡治さんのものづくりー
注文品とオリジナル作品を交互に製作しながら、週3~4日は自森で木工・木彫(彫刻の授業)の講師をしている匡治さん。子どものころから絵を描くのが好きでしたが、立体には興味がなく芸大彫刻科を選んだのは、意外にも「高校の油絵の先生から彫刻をすすめられたから」。大学時代、木を彫ったときに石や粘土とは違う感じの手応えがあったことから木の彫刻家へ。
大学院修了後は自森の講師と並行して、千広さんと参加した日韓若手アーティストグループ「r」で、アートイベントや彫刻ライブをしながら「アートと社会とのつながり」を模索していました。
2006年、第一子が生まれて転機が訪れます。
「かわいい!彫りたい!」と子どものかわいらしさを表現したかったものの、イメージとは違う作品ができてしまい、また模索の日々。そんなある朝「わかった!俺、漫画を描く!」と宣言し、完成したのが家族の日常を綴った漫画『とっとこばなし』でした。
ブログにアップしたところ、まわりから「絵が上手い!」と大反響! これをきっかけに漫画のような絵を元に彫刻にしていく、というムシャヒナ人形のスタイルが生まれました。
2012年、匡治さん初めての個展でムシャヒナ人形は全て完売。「朝日新聞の展覧会の小さな記事を見て初日に電話で買ってくれたり、知らない人が買ってくれたり、求められているのがうれしかった」といいます。
そのムシャヒナ人形。注文を受けた後、モデルの肌色に合わせて桜、楓など製作する木を決めていきます。なんとも優しい色に見えるのは、粒子の細かい日本画の絵の具を使い、木目が見えるように着彩しているから。彫りながら木を乾かし、4か月に一回くらいまとめて着彩します。
最初は、息子の草太郎君と柑太君の顔やポーズ、愛猫マルタをモデルに作品を製作していました。今は、動物像や家族像などの注文も受け、年間20体以上製作しています。工房には今でも子どもたちの小さいころの写真が貼ってあり、製作の大事な一部に。
彫刻屋 近正:千広さんのものづくりー
「小さいころから工作が好きで、ダンボールとかいろんな素材で立体にしていくのが好きだった。気になる建物の展開図をつくって立体にしたり、セロテープで足をぐるぐる巻きにして靴をつくったり(笑)」と根っからのものづくり気質の千広さん。岐阜の加納高校美術科に進学し「粘土をやってみたい!」と彫刻を専攻。卒業後も芸大彫刻科へ進みました。
「コノミノコヨミ」が生まれたきっかけは2005年、匡治さんと参加したアートイベントでのカレンダーの制作販売でした。各自がグッズをつくって販売する際、カレンダーをつくる!と即決。昔からカレンダーが好きで、中学生の時は布でつくったマスコットのカレンダーや、学生時代も毎月自分用につくっていたと話します。
最初はパソコンで制作した前衛的すぎるデザインの「コノミノコヨミ」は4部しか売れませんでしたが、つくり続けること4年。自分の描く絵と木版画のテイストが合うことに気づき、今のスタイルが生まれました。でも、木版画をやりたいというよりは、いつも自分の実現したい絵をどの手段で実現するかを考えているのが好きなのだそう。
制作で大事にしているのは「これ、面白いかも!」という気持ち。「落書きをいっぱい書くことから始めて、頭の引き出しをたくさん開けてから、面白いと思うことを出してうまくつなげていく。それを12枚でまとめる感じかな」
カラフルな色合いからは想像できませんが、色を使うのが苦手と言います。去年は色鉛筆を使って制作するも、納得のいくものができず苦しい思いをしました。最終的には、木版画より手間のかかる方法で実現したい絵をつくり上げたそうです。
2020年には16年続けてきた「コノミノコヨミ」の制作に区切りをつけました。「次も楽しみにしている」という言葉を原動力に「カレンダーは今年つくって来年はつくらないというものではなく、続けることが大事」と、続けてきましたが、以前の「ワクワクしながらつくっていた」気持ちが徐々に薄れていきました。
「毎年4月から構想をはじめて、7〜9月で集中して制作します。12枚をつくるのは本当に大変、その時期は家が荒れちゃってた」お母さんがカレンダー制作に取られてしまうと感じ、子どももストレスをためて爆発したこともありました。
制作をやめると宣言したときは、思っていた以上に周りの反響が大きく、特に切磋琢磨してきた親友にも引き止められました。“お母さん”になり、子育てに追われ、周りにいろいろと言われながらも制作を続けることには、苦しさや辛さもある。それでも、親友とやりがいと辛さを共感し支え合って続けてきました。
「だけど、私が伝えたいのは、“苦しさ”ではなく、“これ面白いよね!”というワクワク感だから。私自身が楽しんで生きたいし、それを作品として出していきたいから、次のステップとして、何をするか考えていく方が前向きでいいと思って」
今年は、カレンダーの締め切りもなく、開放感を満喫しています。今は朝一でカタツムリを観察するのが楽しみだそうです(後編へつづく)。
※NHK BSプレミアム『ニッポンぶらり鉄道旅』にて、彫刻屋 近正が紹介されます。ぜひご覧ください!
- 10月14日(木)19:30〜19:59 本放送
- 10月16日(土)7:45~8:14 再放送
- 10月21日(木)0:30〜0:59 再放送
関連情報
- 屋号
- 彫刻屋 近正(こんしょう)
- TEL
- 042-978-8373
- 042-978-8373
- オンラインショップ
- https://konshow.thebase.in/
- @kon.show
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