愛らしくてどこか温もりのある「…
-
特集・連載
愛らしくてどこか温もりのある「ムシャヒナ人形」、カラフルで暮らしに溶け込むようなカレンダー「コノミノコヨミ」。「日々の暮らしに寄り添えるアートを」がコンセプトの近正匡治(まさはる)さんと千広(ちひろ)さんが営む「彫刻屋 近正(こんしょう)」。
前編に続いて、後編です。
ゆるくて豊かな、子どもとのくらしー
実感をひろいあげ、創作を続けてきたお二人にとって「子どものいる生活は創作に影響を与えている」といいます。
「子育てで大事にしていることはないのだけど、子どもが生まれて人間が4人になったという感覚はあるよね。楽しく暮らしていくにはどうするかを話し合うのを大事にしているかな。自分が好きなように、自分なりに子育てをしていると思う」
子育てには答えがないからこそ、お互いの思いや考えをすり合わせることを大事にしている、と匡治さん。
千広さんは「子どもが生まれた段階で、一段すごく豊かなものを入れてもらっているという感じはあるのね。自分の知らない扉が開いて、自分の知り合えない人と知り合える、自分と違う人間と知り合える。私は真面目だから笑、一人だとああいうカレンダーはできてないと思う。適度にゆるく、この家族で一緒に暮らした影響で『コノミノコヨミ』はできているし、これからも楽しく面白いものがつくれたらいいな」
彫刻屋 近正の “今”と“これから”ー
今、千広さんは彫刻屋近正のHP制作や作品の相談に乗って、匡治さんの製作を支えています。
「“ものをつくらなきゃいけない”ということに、こだわらないといけないのか?とさえも思っているのね。模索中だけど。今は彫刻屋近正がようやく形になってきているのが一番うれしいし、楽しかったらいいかなって思ってます」カタツムリの観察のように自然を観察する視点や感覚を生かせるもの、何かないかな?と千広さん。
「だんなをたてるために奥さんがサポートするという形が嫌だった。今は千広がサポートしてくれることが役割として向いていると感じていて、今の形、バランス感がとてもいい」と匡治さん。
息子の草太郎君に作品の写真を撮ってもらうこともあるのだそう。それぞれの役割や関係が自然に変わっていく中で、今の心地よい形に辿り着いたように見えます。
以前、匡治さんは彫刻に専念するために自森の講師を週1日にしたことがあります。その時、心身・生活のバランスを崩したことがありました。
「木彫で、なかなか上手く手を彫れなかった子が、自分の手を石膏で型取りして持ってきたことがあったんだけどね。言われてないことを自分で考えて達成するためにやる、そういうのを見るのがとても刺激になっているんだよね」
自森の生徒たちにエネルギーをもらっていることを改めて実感し「つくること」と「教えること」が支え合っている環境こそが、自分の心地よいバランスだと気づいた出来事でした。
「これね、ミニ仏壇をつくったんだよ。うちの父親がね、去年死んで、クスノキでね。扉の取手が大好物のシャケ。父親が亡くなって一つ形になったんだよね」と、黄色いお花が供えられた小さな仏壇を見せてくれました。
扉を開けると、てっぺんの「うろ」から光が入って中がキラキラと輝いています。引き出しの取手はお父様が仕事で使っていたキッチンカーだそう。「自分がこういう年代になって、これからこういうものも形にしていこうと思ってるんだよね。今、ものすごく彫るのが楽しい」
それを見てる千広さんも「幸せ」。日々の実感が、また新たな創作へとつながっていきます。
心地よいバランス感を土台に、日々の出来事の実感をていねいに見つめ「楽しい」「面白い」を拾い上げることを大事に、作品をつくり続けているお二人。手を触れてはいけないようなアート作品ではなく、そんな自分たちの作品をかわいがって身近に感じて欲しいと話します。
彫刻屋 近正がつくる、暮らしの悲喜こもごもに寄り添う作品が、これからもとてもたのしみです!
関連記事/おすすめ記事