はたらく

ライター:ハネジ ユキエ

2025.11.15

地元の味を、まっすぐに。入間「池乃屋園」の狭山茶づくり

地元の味を、まっすぐに。
入間「池乃屋園」の狭山茶づくり

狭山茶の主産地、入間市にある「池乃屋園(いけのやえん)」は、江戸時代後期からお茶づくりを続ける老舗の茶園です。

広大な茶畑を自ら管理し、摘採から製造、販売までを一貫して行う「自園・自製・自販」のスタイルを守り続けています。

伝統を大切にしながらも、時代に合わせて進化を続けるその姿は、まさに狭山茶の中心的存在と言えるでしょう。

茶師・池谷英樹さんが守る「味の狭山茶」

池乃屋園を率いるのは、茶師・池谷英樹さん。

“繊細な香りや味を見極める鑑定技術”と“原葉をよいお茶へと加工する技術”の両方で最優秀とされる「農林水産大臣賞」を受賞した職人です。

池谷さんが培ってきた技術は、茶畑の管理から製造、販売に至るまで全工程に活かされます。その確かな技術と経験が、池乃屋園の狭山茶の味を支え続けています。

“強い深蒸し”で仕上げる、優しい味わい

狭山茶の味を左右する最初の工程が「蒸し」。

摘み取った生葉を蒸して酸化を止め、うま味や香りを閉じ込める。「蒸し一発」と言われるほど、茶師にとって重要な工程です。

池乃屋園は、一般的な深蒸しよりもさらに長く蒸す「強深蒸し」製法。渋みを抑え、まろやかな味わいに仕上げています。

どんな淹れ方でも美味しく飲めるよう、日々の気温や湿度、茶葉の状態に合わせて蒸し時間を秒単位で微調整。

誰が淹れても「池乃屋園らしい味」が再現できるように工夫されています。

季節とともに変える「仕上げの火入れ」

摘みたての茶葉は、2週間以内に荒茶(あらちゃ:中間製品)に仕上げなければなりません。気温や湿度の変化に対応するため、製造は夜通し続くこともあります。

生葉300kgからできる荒茶は、わずか60kgほど。その限られた茶葉を最高の状態に仕上げるために、池谷さんは一つひとつの機械を丁寧に見守ります。

機械と職人の感覚が調和してこそ、品質の安定が生まれるのです。

摘みたての茶葉を荒茶にしたあとも、池乃屋園ではすぐに出荷せず、季節に合わせて火入れ(焙煎)を変えています。

「お茶は季節ごとに味わいが変わります。秋、冬に向けてつくられるお茶葉は、焙煎を強めほっこり楽しめるお茶にしています」と池谷さん。

季節の移ろいを味わいとして表現するーそんな丁寧な手仕事も、池乃屋園の魅力の一つです。

変わる茶業界の中で、支える力に

近年は、抹茶ブームによる原料価格の高騰や、茶農家の減少など、お茶業界を取り巻く環境が大きく変化しています。

そんな中でも、池乃屋園は自分でつくる、売るという一貫体制を強みに、安定した供給を可能に。生産者どうしの連携にも力を入れ、地元産のお茶を広く流通させる取り組みを進めています。

「一人ではなく、連携して広げる時代。自分たちの手で、狭山茶の未来をつくっていきたい」と池谷さん。

狭山茶の根っこを守りながら、その可能性を次の世代へつないでいます。

飯能にも広がる、池乃屋園の味

飯能市内の飲食店でも、池乃屋園の茶葉を使うお店が増えています。

地元で育ち、職人の手で丁寧に仕上げられた狭山茶は、食後のお茶やスイーツとの相性も抜群。

生産者として顔だけでなく、茶商としての顔も持つ池谷さんだからこそ、狭山茶の価値を守り、広く届けられるのです。

茶師と茶商の両面で支えられた狭山茶の味わいを、この冬ぜひ体感してみてください。

関連情報

店名
池乃屋園
所在地
入間市西三ツ木59
TEL
04-2936-0639
04-2936-0639
営業時間
9:00〜18:00
定休日
日曜・祝日(4〜6月・12月は無休)
HP
https://ikenoyaen.com/
Instagram
@japanesetea_ikenoyaen

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記事を書いた人:
ハネジ ユキエ

生まれ育った沖縄を離れ、2024年春に飯能へ移住。

ものづくり、暮らしを豊かにするモノ、地域を元気にするヒト、大人からこどもまで楽しめるコトを取材しています。最近は、いちご栽培のお手伝いと家庭菜園に夢中。しゃべるとなまってます。

  • カメラマン兼ライター
  • 紙もの全般、動画などの制作ディレクター
  • 書籍づくりに向けて活動中

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