はたらく

ライター:清水 麻由

2024.04.18

飯能の自然と人が生み出す「五十嵐酒造」の美味しい日本酒

飯能の自然と人が生み出す
「五十嵐酒造」の美味しい日本酒

飯能を訪れる人や、移住者が魅力として挙げることの多い、飯能の身近な自然。その代表のひとつが名低山である「天覧山」です。

その名を冠した地酒「清酒 天覧山」は、飯能市内外で広く親しまれています。

醸造元の五十嵐酒造株式会社(以下、五十嵐酒造)は、市内唯一の日本酒の酒蔵であり、飯能の風土を生かして「清酒 天覧山」をはじめ様々な日本酒を醸造しています。

飯能駅から徒歩20分ほど、入間川沿いにある五十嵐酒造。5代目で代表取締役社長の五十嵐正則さんにお話を伺いました。

五十嵐酒造の誕生は、1890年頃

当時、北国の農家さんは雪の時期になると出稼ぎをしていたそうですが、新潟の農家だった初代も、杜氏(とうじ)として青梅市の「澤乃井」醸造元である小澤酒造へお酒づくりに来ていました。

のちに「飯能でもいい水が出るから、やってみてはどうか」との話があり、独立して現在の五十嵐酒造の駐車場がある場所に酒蔵をつくります。

「以前、青年会議所でどこの水が美味しいか、飲み比べをしたんです」と正則さん。

名栗や吾野、日本名水百選に選ばれている水、大宮の公園の水、そして五十嵐酒造の地下水など7種類の水を飲んで投票してもらったところ、見事、五十嵐酒造の地下水に軍配が上がったそう。

五十嵐酒造の敷地内には井戸が3か所あり、用途によって使い分けているそうです。

ほかがやらない挑戦を続けること

開業当時は飯能市内に4軒、埼玉県内では70軒ほどの日本酒の蔵があったそうですが、現在市内では五十嵐酒造1軒のみ、県全体でも半分ほどに減ってしまったとか。

昭和16年頃、五十嵐酒造は現在の場所へ移転するために、一時的につくるお酒の量を減らしていました。すると時同じくして戦争が始まります。

米が配給制度になり、その減らしていた時期の酒造分の原料しか手に入らなくなってしまいます。

「原料の量が限られていたので、当時の多くの酒造のようにお酒をたくさんつくるのではなく、少量でも質の高いお酒をつくるようにしたんです。それが生き残れた理由だと思います」

ほかがやっていないことをやろう、という心意気は代々引き継がれ、30年ほど前には「埼玉県内で初めて女性を受け入れた酒蔵」となります(酒蔵は女性禁制でした)。

「昔の酒づくりは、超パワー系だったんです」と正則さんは言います。

1tのお米をスコップで掘ったり、30kgある材料を持って急な階段を昇るなど、全てが力作業で危険なため、女性にできる仕事がなかったのです。

しかしあるとき、正則さんのお姉さんがお酒づくりをすることになり、改革が起こります。大量のお米をクレーンで持ち上げたり、風の力で運ぶ機械を導入したのです。

30年前の当時、全国的に見ても女性が酒蔵に入るのは珍しかったそう。「守りもいいけれど、挑戦し続けないと変われるところも変われないですから」

五十嵐酒造では、現在も女性の蔵人(くらびと)さんが活躍しています。

人と自然との対話がつくる、美味しいお酒

現在、酒造の最高責任者である杜氏1人と、正則さんを含めた蔵人4人でお酒づくりをしている五十嵐酒造。年齢も20代から70近い方まで、幅広い年代の職人さんが揃っています。

杜氏の小林さんは、もともとは映像作品など美術の仕事をされていました。絵や書道が得意で、お酒のラベルの文字を手がけたり、酒蔵のイベントでは書道パフォーマンスもされているとか。

「酒づくりは、誰がどこでつくるかだと思います。あとはいかに手間を惜しまずにできるかですね」と正則さん。

一番のこだわりは米洗い。お酒づくりに適した粒の大きな酒米(さかまい)というお米を洗い、心白(しんぱく)と呼ばれる部分だけを残します。この後の過程でお米から糖分を最大限に引き出すのに重要な作業です。

洗ったお米を見ると、小さく丸くなっているのがわかります。

「ここでミスをしてしまうと、後々まで大変になる」という米洗い。昔はタライにお米を入れて手で洗っていたそうですが、一斉に同じ洗い方をしても、人によって洗ったお米に数グラムの誤差が出てしまうことも。

現在は水流と気泡で洗える機械を使うことで、均一の重さになるそうです。

近年は高温障害などでお米が割れたりと、お米の品質にも影響が。でも日本酒づくりは、それを技術でカバーできるそうです。

「昔は経験と勘と根性でやっていましたが、今は数値と根性です」

いつの時代でも根性は欠かせませんが(笑)、データ化することで安定した、美味しいお酒の品質を保っています。

人々が集い、つながる酒蔵

酒蔵の見学も可能です。目の前で見るお酒づくりの現場は迫力があります。

取材時に見せていただいた、その日の朝できたばかりという麹は、白く光っていてとてもきれいでした。

趣のある木造りの蔵は「お酒好きな大工さんが『お酒を飲ませてくれるなら』と建ててくれたらしい」というエピソードも。

お酒のよい香りに包まれながら、正則さんの解説で五十嵐酒造の歴史やお酒づくりの過程を楽しく知ることができます。

木の桶からなぜホーローのタンクが一般的になったのか?など、日本のお酒に関する興味深いお話も伺えます。

酒蔵に併設しているお店では、代表格の「天覧山」のほか、伝統的なつくり方で醸造する「山廃仕込み」、酵母の色が美しい「桃色にごり酒MOMO」などバリエーションに富んだ日本酒が購入できます。

「国内でも、いろいろなお酒をつくっているほうだと思います」という言葉通りの品揃えです。

常に新しい試みをしている正則さん。飯能市内の20歳になる人に、成人式(二十歳の祝い)で五十嵐酒造のお酒の引換券付きチラシを配布しているそうです。

お酒デビューの若者に、地元の美味しいお酒が飲める機会をご用意されるとは、なんとも粋な計らいですね。

年2回行われる「蔵祭り」も大人気のイベント。「地元の人でも、ここで何をやっているのか知らない人も多いので、ぜひたくさんの方に知ってもらえたら」と正則さん。

来る4月21日(日)には「春の蔵祭り2024」があります。当日しか買えない限定品の販売や、人気の試飲コーナー、無料の甘酒や大特価の酒粕販売などなど、もりだくさんの内容です(詳しくはHPをご覧ください)。

日本人にとって、身近な存在である日本酒。

お米を洗って吸水させ、麹をつくり、酵母で発酵させる。そこには自然と人の力とで生み出される奥深い味わいがあります。

豊かな緑と水を誇る飯能に想いを寄せながら、今夜は美味しい地酒を一杯いかがですか。

写真:赤井恒平

関連情報

店名(酒蔵名)
五十嵐酒造 株式会社
所在地
飯能市川寺667-1
営業時間
9:00〜17:00
TEL
042-974-7788(店舗)
042-974-7788(店舗)
FAX
042-974-0394
店舗定休日
1月1日〜3日
HP
https://www.snw.co.jp/~iga_s/
オンラインショップ
https://www.tenranzan.jp/
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記事を書いた人:
清水 麻由

飯能周辺のイベントに出没しては、消しゴムはんこなどを彫る人。造形屋。自由人の夫&息子とゆるくて愉快な飯能ライフを送っています(飯能市内で広いおうち探してます)。

  • アート・クラフト屋イワオカフェ
  • くらしの修繕センター・イワオヤ
  • ウッドターニング(木工旋盤)修行中

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