古着はお好きですか? 好きな方…
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飯能高校の図書館は、だいぶ変わっているらしい。そんな話を県外の高校教員から聞いたのは半年ほど前のことでした。
曰く、生徒たちが図書館に足を運ぶよう名物司書が工夫を重ね、漫画に、コスプレグッズに、コタツまである、図書館らしくない図書館をつくっているそうな。
今回はご縁をいただいて、そんな飯能高校の図書館を現地リポートする機会を得ました。
司書の湯川康宏(ゆかわ・やすひろ)さんにお話を聞いて見えてきたのは「どんな生徒にも必ず居場所が見つかる図書館」という、令和の時代の学校図書館のコンセプトでした。
生徒を引き寄せるカラフル図書館
突然ですが、ライターの私、本屋通です。通なんて言うとハードルが上がってしまいますが、旅先では必ず地元の本屋さんや、なんなら公立図書館や大学図書館にまで入ってしまう、本のあるスペース大好き人間です。
地味な学校図書館を、創意工夫でよみがえらせたストーリー、興味津々、でもこの目で見るまでは半信半疑で校門をくぐりました。
司書の湯川さんに先導されて向かうのは、学校の奥の特別教室棟の最上階。最後の踊り場から階段に装飾が…! 本の背表紙ですね。どうやら名作がお好きな様子。
階段を昇った先が、図書館の入り口。はい、こちらの方が湯川さんです。ポスターであらためてご挨拶いただきました。
写真だと伝わりにくいですが、机の上に置かれたPCからスーパーマーケットでお馴染みのメロディが流れています(〜♪)。
「聞き慣れた音楽で入館の敷居を下げているんです」と湯川さん。これは、入り口からカオスな空気…。
中へ入ると、漫画棚と写真集がお出迎え。アイキャッチ強めです。入館したところに目玉商品って、書店か!(あるいはスーパーか!)と突っ込みたくなる配置です。
にしても、私が高校生の頃なんて、図書室にある漫画なんてせいぜい手塚治虫くらいなものだったけどなぁ(写真集は星野道夫はあっても、アイドルはなかった)。世の中は変わっているようです。
館内は用途別に5つのスペースに分けられていて、それぞれのゾーンが文字通り色分けされています(うち1つは注目図書の「黄色エリア」)。
いわゆる図書館の「緑色ゾーン(読書エリア)」。
おしゃべりOKの「橙色ゾーン(交流エリア)」。デスクの上にはボードゲーム。喫茶部のような活動もあるそうな。
ゆったりくつろぐ「桃色ゾーン(視覚エリア)」。雑誌とか美術書とかライトノベルとか有村架純の写真集などが置いてあります。
プラレールの説明をする湯川さん。3層で組み立てる難易度の高い設計で、プロの「プラレーラー」が協力してくれたとのこと。
自習をしたい生徒向けの「青色ゾーン(学習エリア)」。ここだけはおしゃべりNG。ゲーミングチェアで勉強の負荷を軽減します。
カラフルな色合いが、視覚的にカオス。そして物が多い! なぜかコスプレコーナーが。ちなみに湯川さんの私物とのこと。他にも、ここでは紹介しきれない小ネタが満載です。
仕掛け人がたどり着いた意味深いコンセプト
司書の湯川さんは、いまから7年前に着任されました。もともと埼玉県の職員として県立図書館の運営に携わってきましたが、飯能市立図書館建て替えプロジェクトに関わった縁で飯能市が好きに。
ちょうど空きが出た飯能高校の学校司書に自ら希望して異動されてきたとのこと。
「着任した当時は図書館に生徒はあまり来ていない状態でした。使ってもらってこそ本が生きてくる、空間が生きてくる。まずは来てもらえる状況をつくろうと考えました。欲しいものを用意すれば生徒は来るはずで、その欲しいものが何なのか。それを知るのは生徒たちの本音を聞くことと同じで、2〜3年かかりましたね」
湯川さんの飄々としたキャラクターが、生徒たちと打ち解けた雰囲気をつくることに作用しているように思いますが、そのキャラクターも生徒たちとコミュニケーションを重ねてきた努力から磨かれたのかもしれません。
そんな湯川さんが、試行錯誤を重ねてたどり着いたコンセプトが「どんな生徒にも必ず居場所が見つかる図書館」です。
「図書館を『すみっコ図書館』と呼んでいますが『すみっコぐらし』というキャラクターをモチーフにしています。ネーミングは校舎のすみっこだからという理由で軽くつけたのですが、よくよくキャラクターのことを知ると、複数いるキャラクターそれぞれが人に言えない秘密とかトラウマみたいのを持っているんですよね」
「たとえば、人見知りで人に自分の意見をうまく言えないとか。本当は希少動物なのに、多数派のふりをして生きているとか。みんな秘密があるんだけど『すみっコ』っていう場所に来ると仲よくできて、そういうことを気にしないで過ごせる」
「図書館がそういう場所になったらいいんじゃないの?って考えています。高校生とキャラクターたちは、共通点がすごくあるんじゃないか。クラスでは一見うまいこと周囲と合わせているようだけど、実は無理して合わせていたりとか。本当はそこに居たくないので自分の居場所を他に見つけていたりとか」
「だから、図書館を誰が来ても自分の居場所を見つけられる場所にしていくには、どうすればいいんだろうかと考えています。名前をつけてから、そのネーミングに合ったコンセプト空間をつくっていこうっていう風に、動きながら考えている感じです」
最後に、コロナ禍が落ち着いてこれからの図書館の展望について聞きました。
「授業ではアクティブラーニングなどが進んでいますが、図書館では人を育てることを別の形でやっていきたいと思っています。たとえば、コロナ前は市立図書館のスタッフをゲストに呼んでビブリオバトルを開催したものですが、外部の人に来てもらって生徒と触れ合う機会をつくることを、これからもしていきたいですね」
地元住民や、はんのーと読者として関わる機会はあるのでしょうか?
「学校のWebサイトで見学を受け付けていますので、まずはお気軽にお越しいただければと思います。多い年では年に30回ほど受け入れています。お一人からでも私が空いていれば、ご案内させていただきます。そうしてここに来て慣れていただいてから、生徒と一緒に何ができるかを、単発企画ではない何かで考えていければと思います」
学校の片隅にある「すみっコ図書館」。場所はすみっこですが、日々最前線のチャレンジを重ねています。
写真:赤井恒平
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