「理想の移住先」は意外と近くに…
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『天空の城ラピュタ』『火垂るの墓』『もののけ姫』『時をかける少女』など日本を代表するアニメーション映画の美術監督を務めた山本二三さん。まるで映画から出てきたような雰囲気の飯能のご自宅で、お話を伺いました。
自然の中で暮らしたい
飯能に住むことになったきっかけは、お子さんの幼稚園の親子ハイキングでした。
「子の権現と竹寺に登ったときの山道、青場戸辺りの眺めがとてもよくて。渓流釣りが好きで、よく釣りにも来ていたんです。『もののけ姫』で完全燃焼したので、引っ越しをして環境を変えようと、眺めもよく条件も合った現在の土地に自分で設計図を描き、家を建てました。それからジブリを辞め、この自宅のアトリエで仕事をするようになりました」
二三さんの故郷は長崎県五島列島の福江島(五島市)。海で泳いだり山に登ったり、大自然の中で育ったからこそ、そんな環境に帰りたい気持ちもあったそうです。今年は、ライフワークにしていた『五島百景』も10年をかけて完成しました。ほとんどが飯能のアトリエで描かれ、故郷の五島列島と飯能は山並があまり高くないところも似ていると話します。
森のような庭に囲まれて
飯能の住み心地をお聞きすると「地元の人が優しいし、生活しやすいですね。あと、空気がきれい」引越した2か月間、徹底的に庭づくりに専念したところ、精神的な疲労がすっかり取れたとか! そのときに植えた、ドングリ、沙羅、シュロ、バラの苗木は21年たった今、家よりもはるか高い木々に成長し、庭はまるで森のようで鳥がよく遊びに来るそうです。木々が太陽の光を遮ってくれ、夏は涼しく気持ちいいと話します。
一度ジブリを辞めたものの呼び戻され『千と千尋の神隠し』の背景は、なんと飯能のアトリエで描かれたそう。その後も『天気の子』の背景画など多くの絵がこのアトリエから生み出されました。
自然や暮らしの発見が作品に
緻密な背景美術ですが、自然の中でのいろいろな発見から多くの影響を受けるそうです。
「朝冷え込んだときに、川の表面を流れに沿って霧が流れていくのが面白いですね。雲や霧がかかってる山並の景色も勉強になります。雪が積もった日には寒さを描きたくて、朝早く起きて、一気に写真を撮って描いたこともあります。山の重なり合いや、夕方黄色い光が当たっている山並なんかすごくきれいで『もののけ姫』のタタリ神が降りてくるシーンに似ていますね」
暮らしから影響を受けたことも。毎日犬の散歩に行っていた場所に、龍の顔に似た岩があり、願導石と呼ばれていました。「昔、悪さをする獅子を退治したところ、その獅子が龍岩になった」という伝説がありましたが、3体のうち1体が工事で川に落ちてしまい、現在は2体に。それをモチーフに小説を書いたこともあるそうです。
また、仕事で海辺に女性のいる絵を描いたとき、お孫さんに似ていたことも。
「一緒に暮らしているから影響を受けますよ。自分のつくったアニメーションを見てくれると、本当にうれしいです。昔、映画制作で忙しかった時は考えられなかったことです。あと外で猪が出たら蹴飛ばしてでも孫を助けなきゃいけないなと(笑)。じいじの役目として孫を守っていきたいですね」と美術家から「じいじ」な一面も。 飯能の自然と暮らしが作品にも影響していると思うと、感慨深くなりますね。
絵はずっと描いていきたい
これからやってみたいことをお聞きしたところ「五島列島の倭寇の伝説の『勘次ケ城』の漫画を完成させたい。路地が狭くて、ノスタルジックで、ガジュマルもいっぱいある台湾にも行ってみたくてね。若冲が鶏ばかり描いていたように、果物や南の植物もいっぱい描いてみたい。パパイヤが好きなので(笑)。これからも絵はずっと描いていくと思いますよ」
最後に飯能での好きな場所をあげてもらうと「山並の桜、新緑、紅葉もきれいですね。紅葉の東郷公園も描きました。吾野の集落全体もきれい。頼まれて描いた吾野小学校(現在は廃校)の校舎も好きです。顔振峠も義経がその景色のあまりの美しさに振り返ったという伝説があるので、ロマンを感じます」
美術家を唸らせる風景を見に、ぜひ飯能へ足を運んでみてはいかがでしょうか。映画や作品をより身近に感じられると思います。終始、優しいオーラで和かに取材に応じてくださった二三さん。現在制作中の漫画『勘次ケ城』も読んでみたいですね!
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