飯能駅から車で約15分。山が間…
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特集・連載
移住。それは暮らしがガラッと変わるかもしれない、人生の一大イベントです。
飯能へ移住する前と後では、どんな暮らしの変化があるのでしょうか。今回お話を伺ったのは、2年ほど前に練馬区から南高麗地区へ移住された高橋宏幸さん・佳奈さんご夫婦です。
「種」がつないだ、農のある暮らし
2022年2月、息子さんの小学校入学のタイミングで飯能へ移住された高橋さんご一家。飯能との縁は「種」でした。
「私が喘息になってしまって、食べものに気をつけ始めたんです。それで無農薬野菜をつくりたくて練馬で区民農園を借りたりしていました」
そう話してくださったのは、佳奈さん。
からだに優しい野菜づくりを調べていくうちに「固定種野菜」と出会います。「固定種野菜」とは、固定された形質が親から子へ受け継がれ、自家採種ができる野菜のこと。
固定種といえば、飯能にある「野口のタネ」が有名で、佳奈さんも興味を持ったそう。
そんなとき、宏幸さんの友人がたまたま持って来てくれた日高市にある「たねの森」のパンフレットを見て、固定種野菜の栽培を学べる「畑の学校」へ通うことに。
「日高や飯能のあたりを案内してもらうことがあり、いいところだなと思っていて。あるとき飯能市の『農のある暮らし 飯能住まい』の制度を知ったんです」と宏幸さん。
宏幸さんは都内の会社にお勤めですが、当時はコロナ禍でリモートワーク中心になったこともあり、移住を決めます。
日高なども検討したそうですが「都内へも通いやすく」「農のある暮らしの制度がよかった」ことが決め手に。
ちなみに現在は、平日ほとんど会社へ出勤している宏幸さん。
「仕事には行きやすいです。駅までも歩こうと思えば歩ける距離ですし。飲み会があると歩くの辛いですが(笑)」
もともと畑をやっていた佳奈さんにとっても、庭で心おきなく野菜づくりができることは何よりの魅力でした。
ホームセンターにも行きやすく、佳奈さんが実践している「菌ちゃん農法」の土づくりに必要な丸太や朽ちた杉の葉、竹などほしいものは全て揃います。
移住前よりずっと快適に、農のある暮らしを満喫されています。
飯能の木と人から生まれた安心の住まい
高橋さん宅は平屋で、それほど部屋数も多くありませんが、リビングの天井が高く広々と感じられます。
こだわりは動きやすい動線。玄関を上がってすぐにキッチンに荷物が運び入れられるようになっていたりと、スムーズな家事を優先した造りになっています。
「せっかく飯能で建てるなら地元の人に、地元の木で」と、設計を「コウ設計工房」に、施工は「矢島工務店」にお願いして、西川材を使ったお住まいに。
平屋にしたのも設計士さんの提案があったからだそうですが、結果的にコンパクトで使い勝手のよい、掃除のしやすい家というご夫婦の理想が叶いました。
佳奈さんの「呼吸器に優しい家にしたい」という希望で、なるべく無垢材で壁は漆喰と和紙を使ったという高橋さんのお宅。
「住み心地もいいし、からだにも優しい。健康面の理由で住み替えに至ったので、今の家は安心できます」と佳奈さん。
一家に訪れたうれしい変化
以前は寝込んでしまうことも多かったという佳奈さんですが、移住後は体調もかなりよくなったそう。
さらに変化があったのは、宏幸さんの休日の過ごし方です。
「今は休みの日は、ほとんど外に出てますね」という宏幸さん。現在、月一回は山へ間伐に行き、日々薪集めや薪づくりを楽しんでいます。
取材の日も、午前中に近くの山で木を切ってきたそう。
冬は薪ストーブだけで暖かく過ごせている高橋邸ですが、欠かせないのが薪づくり。
佳奈さんの希望で薪ストーブを入れることになったものの、当時宏幸さんはあまり興味がなかったそう。
「薪をつくるにも『都会出身だし大丈夫かなぁ?』と思っていたら、ものすごくハマっちゃって」と佳奈さんもびっくりの変化だったようです。
「木を切りに行って、いろいろな人と話ができるのも楽しいんです」と笑顔の宏幸さん。
佳奈さんも「前は全然こんな感じじゃなかったんですよ!」と笑います。
木を切る楽しさに目覚めた宏幸さん。自伐型林業講座に通い、ひと通り林業の勉強もされたとか。「同僚たちに間伐ツアーが人気なんです」
自然とのふれあいを求めて、職場の方々が飯能へ来ては薪を切ってくれるそう。家の裏手にあるバーベキュースペースにも人が集まるとか。
「みんな一回来るとまた来たくなるようです。『来てみると意外と近い』とも言ってますね」
楽しく暮らすご夫婦のもと、小学生の息子さんもイキイキとしています。木工が大好きになり、宏幸さんと一緒に木を切りに行ったり、端材での工作をエンジョイしているそうです。
「以前ならお店で買わなくてはならないような工作の材料も、今では身近にあるのがうれしいです」と佳奈さん。
夏は釣りに行くという宏幸さん。息子さんが近所の方にもらったキジの羽根でつくった「毛ばり」も見せてもらいました。すごい!
出会いと交流でつながる笑顔
ご近所の方からは養蜂など、いろいろなことを教えてもらったりするそう。
「家が道路に面して柵もなく、オープンなので庭にいると必ず誰かが話しかけてくれるんです」と宏幸さん。
「先日も薪をつくっていたら木を積んだトラックが止まって、運転手のおじさんから『この木いる?』と話しかけられまして」
なんと通りすがりの造園屋さんが、処分する木をたくさん譲ってくれたそうです。
現在、宏幸さんは近くの神社の総代の一人としてお祭りの準備なども手伝っているそう。
「ふだん話すことのない70代の方たちと交流するきっかけにもなっています。せっかく移住したのでそういった交流をするのもいいなと。結構忙しいですけど(笑)」
これまで縁のなかった場所に受け入れてもらえるのか心配だった、という佳奈さん。
「でも、ここは『地域の人が新しい人を受け入れることをみんなで話し合って決めた』と市役所の方に聞いて安心して来られたんです」
行政センターから耕作放棄地を紹介してもらい、今年から本格的に米づくりも始めるそう。行政センターの担当の方が、いろいろと相談に乗ってくれるのも心強いと言います。
自宅でオンラインの米粉パン教室をしている佳奈さん。この春から自然食品店「有機の里」で米粉パンの販売も始まりました(有機の里 飯能店での取扱いもあるそうです)。
将来は、自分でつくったお米を使ったパンづくりを目指しているとのことです。
「みなさんによくしていただいて、本当にありがたい。こっちに来ていいことずくめです」
人と地域との縁や、つながりを大切にしている高橋さんご一家。土のよい田畑の作物のように、家族の笑顔が豊かな暮らしを育んでいます。
写真:赤井恒平
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