特集・連載

ライター:渡邉 優太

2021.09.19

LIFE story No.2「巡り巡って出会えた、理想の土地と住まい」

LIFE story No.2
「巡り巡って出会えた、理想の土地と住まい」

小川夫妻との出会いは、新築の住まいを建てるのにアンティークのドアを使いたい、と店へ相談に来てくれたことがはじまりです。詳しく話を聞いていくと、設計図面はだいたいできているが、建て始めるのは半年以上先になるとのこと。

住まいに似合うアンティーク建具を準備する期間もあったので、図面を預かり一か所ずつ似合うものを見つけていくことを約束しました。

そのあいだ何度か打ち合わせを重ね、これから先使い続けていきたい家具のことや、インテリアの話も気が合い、できあがる住まいを想像しながら、お二人が好きと思える理想のインテリアを一緒に考えていきました。

住まいを建てた場所は飯能市下畑。飯能市がすすめる「農ある暮らし」の制度で出会った土地です。農のある暮らしは移住者に向けて、自然の中で農にふれながら気持ちの豊かさを育み、仕事と暮らしの楽しみを両立させていく制度。飯能市に広がる農地の一部を宅地に変更して家を建てるので、ロケーションも最高です。

東京の青梅市出身のお二人は、結婚後賃貸に暮らしていましたが、ご主人の和哉さんは将来的には自分の家がほしいとずっと思い描いていました。時間がある時は中古物件情報などを見て、気になった物件は夫婦で見に行くことも。もともと古い家をリノベーションしたいという希望を持っていましたが、なかなかピンとくる物件と出会うことができません。

奥さまの奈都美さんは、和哉さんのはやる気持ちに対して、住みやすさや快適性の面で冷静にアドバイス。古い家のリノベーションより、マンションリノベの方が暮らしのイメージがしやすかったが、庭のある暮らしには馴染みがあったので、和哉さんの気持ちを優先して一緒に住まい探しを楽しみました。

はじめは青梅市やあきる野市で中古物件を探していましたが、環境が似ている飯能でも物件を探すように。飯能市が管理している「空き家バンク」に掲載されていた中古物件が目に留まり、内見することに。飯能市役所へ話を聞きに行くと、先に検討している方がいてしばらくして契約が決まってしまいました。そのとき市役所の方から教えてもらったのが「農ある暮らし」でした。

「農のある暮らしの対象地域は環境がすごくよかったので、そこではじめて自分たちの気に入った住まいづくりを『新築』でしていくのもいいのではないか」と思えるようになったと和哉さん。土地は広くても、家はそんなに大きくなくていい、それが理想と思っていました。それから焦らず気長に1年半、二人がここだね、と一致した土地との出会いがあり、その日に即決。

家を建てるにあたり、和哉さんが手書きした理想の住まいを仕事で交流のある工務店MOPTOPさんが図面におこしてくれました。

リノベーションが叶わなかったぶん、新築で使う建具は味わいを感じる木製のものにしたいと思っていました。そこで飯能にあるアンティークショップREFACTORY antiquesに相談することに。気長に探していた理想の土地と住まいがこのときようやく一致しました。

そのほか思い描いていた理想の一つに、古材の梁を使いたいという希望がありました。MOPTOPさんに相談したところ、たまたま家を建てるのに古い家屋を解体した梁があり、縁を感じてそれを使わせてもらうことに。希望を快く受け入れて理解をもって工事を進めてもらったおかげで、より望ましい家にすることができました。

家が完成して1年。今の暮らしぶりをうかがいに2021年7月、ひさしぶりに小川邸を再訪しました。家が完成したときにはなかった表札、家の裏の薪小屋、内装の塗装は二人でコツコツ手をかけて完成させました。

塗装の仕事をしている和哉さんは、会社にあった昔の足場を植物の台にしたり、薪割りの道具の下に養生シートが敷かれたり、人となりが感じられる個性に魅力を感じます。

「住む前から家のまわりは雑草がすごかった。せっかく家を建てて手のかかる頃だから、仕事が忙しいと生活が楽しめない」と思い、奈都美さんは近くの職場へ転職しました。

今では刈払機も上手に使いこなし、土地の境界線近くはご近所さんどうしお互いに刈り合う仲に。

ここに引っ越してきて、何が一番よかったですか?

「自然が近くにあることがいちばん気に入ってます。目覚めたときに目の前に緑が広がっていて気持ちがいい。引っ越してきたばかりの頃は、山へ旅行に来てるんじゃないかと錯覚していました」

「雨が降ればカエルが鳴いて、季節季節で変化する虫や鳥の鳴き声が暮らしを心地よくしてくれます」と、共感しながら話をする小川夫妻が印象的でした。

味わいのある建具を取り入れたことで、新築で建てた家もよそよそしくなく、すでに暮らしに溶け込み、親しみを与えていました。

元梅農家さんだったこの土地を活かし、植えてあった梅の木をシンボルツリーとして残すことに。

夏の終わりから庭づくりも進めて、畑や植栽も楽しみたいと小川さん。巡り巡って手に入れた理想の住まいは、これから暮らしに手を入れる楽しみがいっぱい詰まっています。

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記事を書いた人:
渡邉 優太

ユニバーサルデザインに関心を持ち、大学では工業デザイン、人間工学を学ぶ。卒業後〈ザ・コンランショップ〉に入社。植物やガーデンファーニチャーの担当に。その後、いくつかの仕事を経て独立。飯能市に『REFACTORY antiques』をOPEN。国内外で買い付けた古い家具を修理して販売し、個人宅のリフォーム、店舗の空間演出も手がける。

  • REFACTORY antiques 店主

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