小川夫妻との出会いは、新築の住…
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特集・連載
今ほど移住が積極的ではなかった20年前に飯能の名栗地区に住み始めた横田夫妻。まちの中心に出るまで車で20分以上かかる立地に、当時周りの友だちからも何で?と理解してもらうことが難しかった。移住を決めた、土地の魅力に心が動いたLIFE story。
動物や自然が好きな横田夫妻が飯能に興味を持ち始めたのは、水で遊ぶことが好きな犬種ラブラドールを連れて、都内から川遊びに来たことがきっかけになりました。上流は人が少ないし、川の水がきれいでだんだんと名栗方面に行く機会が増えていきました。
河原の駐車場を管理している地元の方に「この辺に住んでいて東京まで通っている人っているの?」と何気なく聞いてみたら「なかには通っている人もいるんじゃないかな」と返事があり、遠い田舎の印象を持っていた2人は「こんなところからでも都内に通えるんだ」という考えが変わったそうです。
都内に通える範囲で環境にもひかれ、中古物件なり家を建てる土地があるか気になり、飯能へ遊びにきた帰り道、地元の不動産屋「春田産業」さんに寄って相談してみることにしました。
いろいろ紹介してもらった物件の中で、山間部にある名栗地区の中でも開けている今の土地が気に入り、思い切って家を建てることに決めました。
「近所に停まっていた廃ダンプの荷台の水たまりを何気なく見たら、絶滅危惧種の指定地域があるモリアオガエルがすごく繁殖していて。それを見てありのままの自然が残っている名栗を魅力に感じた」と裕介さん。取材中も窓に近い山椒の木の赤くなった実を食べているキジバトを見て、鳥は辛みを感じないと教えてくれました。
2人で生活していくのに必要な広さがあれば、大きい家でなくてもいいと思っていた家の間取りは留奈さんが絵に描いて、それを設計士さんに図面に起こしてもらうことに。できあがった家は木のぬくもりを感じるシンプルな平屋。「木の家だったらペンキで塗り替えられるし、その経年変化も楽しそうだ」と完成した当時の記憶を話してくれました。
「木材で内と外を仕切っているだけの造りだから、外の音が身近に感じるよね」と2人が壁の厚みのことを前向きに受容しているその言葉から、交通の便よりもこの土地の自然を近くに感じながら過ごす時間を大切に思っていることがうかがえました。
庭づくりは環境に馴染むように雑木の庭に。自生で生えてきた木もそのまま活かし、今では庭のひとつの景色になっています。
飯能に引っ越してきて8年経った頃、留奈さんは1人でできるくらいの小さな店をつくりたいという思いが強くなり、地元の大工さんに頼んで、購入した土地の一部に小さな小屋を建ててもらうことにしました。2013年、思い描いたお店「喫茶 月輪 -gachirin-」をオープン。
一人で行って落ち着いて過ごせる空間は「大人が楽しむ場所」がコンセプト。一人がゆっくりと過ごせる時間を大切に考えて、勇気をもって10歳以下はお断りに。「若いころだったら許されないような判断だったかもしれないけれど、自分だったらこういうお店に行きたい」と、我慢せず強い意志を持って店づくりをしました。
REFACTORY antiquesにお願いしたアンティークの水屋箪笥がキッチンに入り、店の印象のひとつに。そのほかにも店のインテリアを相談して、母方の実家にあった思い入れのある古い振り子時計も直してもらい、店に入って正面の壁に飾りました。
店に訪れて席につくと、自然が心地よく気持ちを包んでくれます。一人の心地よさは守りながら、適度な距離感で接してくれるサービスは見える形だけではなく、場所や居心地を提供することも店としてのサービスだと気づかせてくれました。
「いろいろやろうとするとパワーを使う。続けることだけでもパワーを使う。だから決まった範囲のことを、クオリティを下げず続けていくことを大切に考えている」9年目の今、これからのgachirinもレベルを維持しながら淡々と続けていきたいと目標を話してくれました。
30代後半から名栗に越してきて20年が経ち、今まで経験してきた移住についての考えを教えてくれました。
「こういう環境に住み始めるなら若いうちからがよいと思う。引っ越してきた当時、庭で車庫をつくっていたら、近所の方が面白がって話しかけてくれて、いろいろ教えてくれた。ちょうど自分たちは息子や娘のような世代だったから可愛がってもらった」
「薪ストーブを焚く準備も体力を使うし、今は車が運転できなくなったら住みづらくなるだろうと思うようになり、これから先の暮らし方も考えるようになった」
飯能で10年以上続いている作り手とお客さんをつなぐマーケット「てとてと市」は、立ち上げの中心メンバーとして若い作家さんたちに声をかけ、飯能のまちを活気づけてきました。そこでの縁は今もお店の食器棚の中でお客さんを迎えています。
ぼくが飯能で店を始めたときもすぐに声をかけてくれた横田夫妻は、今まで受けてきた経験をこれから活躍していく若い人たちへつなぎ、温かく見守っています。
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記事を書いた人:
渡邉 優太
ユニバーサルデザインに関心を持ち、大学では工業デザイン、人間工学を学ぶ。卒業後〈ザ・コンランショップ〉に入社。植物やガーデンファーニチャーの担当に。その後、いくつかの仕事を経て独立。飯能市に『REFACTORY antiques』をOPEN。国内外で買い付けた古い家具を修理して販売し、個人宅のリフォーム、店舗の空間演出も手がける。
- REFACTORY antiques 店主
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