ときどき「一度会ったら忘れられ…
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特集・連載
ちょこんちょこんと波打つハリネズミの背中。ふわりと立ち上がるリスのしっぽ。
じっと見つめていると思わず手にとりたくなる「もくめびより」の作品は、考え抜かれたシンプルな造形に木目の美しさが際立ってます。
刃の行きたい方向へ進ませること
糸のような細い刃を弓状のフレームの両端に取り付けて使う糸のこぎり。手元に迷いが生まれれば、すぐ断面に伝わります。
けれども、一度方向が定まれば、様々なカーブや直線を自分で描いたとおりにカットすることができます。その自由度が糸のこの魅力だと話すのは、木工作家の相川まきさん。
「糸のこは、送り出すスピードと刃に木を当てる角度しかないんです」
力んだり、無理に力を加えたりすれば、刃は簡単に折れてしまいます。気持ちを鎮めて、糸のこの刃が進みたい方向へ進ませること、これが相川さんの糸のこに向き合う姿勢です。
より身近になった木との付き合い
大学では林学を学び、その後は県の林業課職員として20年間勤務。幅広い視点から木と向き合ってきました。
糸のことの出会いは、ご家族の生活ステージが変わり、ご自身のこれからの生き方に想いを巡らせていたときでした。
同僚の「飯能に糸のこがたくさん並んでいる場所があるよ」という言葉が心に残っていた相川さん。ご縁がつながり「糸のこアカデミー」と出会います。
「お試しで体験したら、とっても褒めてもらえて。その気になって通い始めました」
基礎コースからエキスパートコースまで全20回超を通いつめ、卒業後も技術を深めていましたが、新型コロナウイルスの影響もあり「糸のこアカデミー」が閉校。製作場所を失います。
そんな折、知人から新たな製作場所として紹介されたのが、AKAI Factoryでした。
かわいくて、ちょっと役に立つアイテムを目指して
まるで一筆書きのような動きで板を切り出し、造形をつくっていく木工作品。思い通りの形にするには、抽象的なデザインイメージをカット用の一本の線まで落とし込む必要があります。
最初はデザインツールの知識もなく、定規やコンパスを使いながら必死で下絵を描いていました。
苦労して仕上げた初めてのオリジナル作品は「どんぐりす」。記念すべき最初のお客さんは、子どもではなく大人の女性でした。
「自分の作品を誰が喜んでくれるのか、なかなかイメージできずにいました。女性に購入していただいたとき『あ、大人が手にとってくれるんだ』と思ったんです。それからは、誰かの生活に寄り添うような作品をつくりたい、と思うようになりました」
木と対話しながら、自分と向き合う時間
地元の木材を使いながら、革や和紙などAKAI Factoryで知り合った方々の得意とする素材とコラボしたり、染色を試してみたり。今後挑戦したい作品のイメージは広がっています。
「作品を通して、木っていいな、と思ってもらえたら」
ずっと関わってきた木という素材に、別の角度からアプローチし始めた相川さん。糸のこと一人向き合いながら、自分だけの表現を模索する旅は続きます。
写真:赤井 恒平
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記事を書いた人:
つるまゆ
長野県上田育ち→東京経由→埼玉県飯能暮らし/自然に囲まれた生活を愛して、2021年に移住/山と緑、自然食と手仕事、コーヒーを楽しむ生活
- 職業は経理&ライター
- 登山大好き
- 和服大好き
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