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ライター:赤井 恒平

2022.07.10

飯能クリエイターファイル(No.11)彫刻家/玩具デザイナー・江幡三香さん

飯能クリエイターファイル(No.11)
彫刻家/玩具デザイナー・江幡三香さん

たくさんのアーティスト、クリエイターがアトリエを構える飯能。そんなクリエイティブな視点から見たまちの魅力を考える連載「飯能クリエイターファイル」第11弾は、彫刻家/玩具デザイナーの江幡三香さんです。

木のおもちゃを作る彫刻家

優しい色合いで季節を表現した『四季・木つみ木』は、枝の上に葉っぱを乗せて遊ぶおもちゃ。葉っぱ一枚一枚が微妙に異なる色合いになっているのが特徴で、見た目にはもちろん、手ざわり、木の香りなどインテリアとしても人気です。

2018年には「GOOD TOY AWARD大賞」を受賞。現在も全国のおもちゃコンサルタントに選ばれ続けています。

木とは思えないほどの有機的なフォルム、そしてその見た目どおり滑らかな手触りの『KARAKARA』も、2015年に「GOOD TOY AWARD」を受賞。

量産品があふれるこの時代に手仕上げにこだわり、機械では生み出せない曲線や色合いを持つ独特のプロダクトを発表する江幡さん。その原点には「抽象」を追い求めてきた彫刻家としてのキャリアが影響しています。

アートの世界からおもちゃの世界へ

江幡さんが本格的に彫刻に取り組んだのは、狭山のKOBATAKE工房。そこで、彫刻の基礎を学び、石・鉄・粘土・テラコッタなど様々な素材を経験したのち、最終的に作品の材料として選んだのは木でした。

「同じ樹種でも木目が違うので、一つとして同じものがないのもおもしろい。木を素材として使っているというよりは、木と一緒につくっている感覚です」

その言葉通り、江幡さんの作品は木から何かを削り出すのではなく、木の形を生かしたり組み合わせることで、大きさや質感など木そのものの存在を強く感じさせ「尊敬」「畏怖」などの感情を浮かび上がらせてくれるようです。

そして江幡さんの作品は人々の共感を生み、東京、神奈川、千葉や、海外での展示も行うアーティストに。では、精力的に活動していた江幡さんがおもちゃの世界へ飛び込んだのはなぜだったのでしょう?

原点は自分の子どもにつくったおもちゃ

一番大きなきっかけは出産でした。子育て中、作家活動は休止していたものの、つくり手としての血が黙ってはいません。江幡さんは自分の子どもが遊ぶおもちゃをつくり始めます。

「とにかく子どもが笑ってくれるのがうれしくて。次のおもちゃ、次のおもちゃとどんどんつくっていったんです」

ギャラリーで展示されている作品は、触れられることもなく静かに鑑賞されることが多かったから、子どもの素直なリアクションはとても新鮮でした。

また、観に来るのは評論家やコレクターなどが多く、一般の人はなかなか観にきてくれない。そんなアート業界の閉塞感を感じていた江幡さんは、年齢も性別も関係なく楽しめて、好きなだけ触っても怒られないおもちゃを本格的につくり始めます。

飯能だからこそ生まれるプロダクト

江幡さんが飯能にアトリエを構えたのは15年ほど前。様々な場所を探していたけれど「住居+アトリエ」となると、条件に合う物件が見つかりませんでした。そんなある日、飯能に住む友人が偶然見つけてくれた工場と住居が一緒になった物件に出会いました。

「ここなら広さも十分で、音も出せる。神様からのギフトだと思って即決でした笑」

こうして飯能を拠点として活動を再開。2014年にママのおもちゃ工房「mamamano」を立ち上げました。

おもちゃの材料は地元の「西川材」を使い、加工は自分の工房だけでなく地域の専門家たちに協力してもらっているのだそう。

「次は木でつくった絵本を展開したい。WOOD+BOOKでWOOK(ウック)というシリーズです。これもうちの子が大好きだったんですよ」

WOOKのサンプルを見せていただいたのですが、ちょっとした仕掛け絵本になっていて、ページをめくるたびに驚きがやってきます。どんぐりは本物と見間違うほどのクオリティ。発売された際にはぜひ実物を見てみてくださいね。

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記事を書いた人:
赤井 恒平

飯能生まれ。AKAI FactoryやBookmarkを手がけた、飯能リノベーションの第一人者。地域や人をつなぐ「橋をかける仕事」をしています。

  • 飯能市キーマン
  • AKAI Factory 代表
  • 埼玉県「まちなかリノベ賞」最優秀賞(R2年度)

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