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書いた人:かたおか 由衣

2024.06.28

飯能クリエイターファイル(No.23)コサカクラフト・小坂基さん

飯能クリエイターファイル(No.23)
コサカクラフト・小坂基さん

飯能市に、都内からもお客さんがやってくる、無垢家具の工房があるのをご存知でしょうか?

その工房は「Kosakacraft(コサカクラフト)」、飯能駅から徒歩15分ほどの住宅地の中にあります。

隣接したショールームに足を踏み入れると、木の香りがふわっと広がり、丁寧につくられた家具や小物が目に入ります。

カッティングボードを手に取ると、さらさらの手触りに包丁をあててよいのか戸惑ってしまいます。

「思い切り使ってください」と話すのは、コサカクラフトの小坂基さん。

無垢材の家具や小物を手がける

コサカクラフトでは、チェリー材、ウォルナット材など無垢材のオーダー家具を手がけています。無垢材は、年が経つごとに質感の変化を長く楽しめる点が魅力のひとつです。

所沢市のカフェ「ポレポレ堂」をはじめとする店舗の什器や、住宅の扉などの建具、カッティングボードや箸置き、写真立て、キッズチェアなどの小物を製作してイベント出店もしています。

飯能の地域材、西川材でつくったキッズチェアは、飯能市のふるさと納税の返礼品にも選ばれています。

「セルフビルドで建てた」という工房に入ると、そこかしこに機械や工具、木材、つくり途中の家具が置いてあります。

外から見るよりも広々とした工房で、家具職人の小坂さんとスタッフ1人、たった2人で、すべての家具をつくっています。

工房の隣には、小さなショールームがあり、お客さんとの打ち合わせもここで行います。サイズや引き出しの数など、ライフスタイルに合わせて細やかなオーダーに応えます。

小坂さんが家具職人の道を目指したのは、30代になってからというから驚きです。

35歳までSEをしていた

小坂さんは、千葉県出身。大学卒業後、IT企業でシステムエンジニアとして働き、木工家具作家の道を志したのは、35歳のとき。

もともと、ものづくりが好きでDIYを楽しんでいた小坂さん。キッチンのスパイスラックや、お子さんが生まれてからはキッズデスクも手づくりしていました。

川越市に、木工工芸について学べる職業訓練校「川越高等技術専門校」があることを知り、一念発起して入学。一年間、みっちり基礎を学びました。

「はじめは何もできなくて、趣味とプロの違いに愕然としながらも、なんとか卒業できました」

当時、この技術専門校は、飯能から川越に移転したばかりで、何かと飯能のことを耳にする機会が多かったそう。

森林に囲まれている飯能には木工作家が多くいることを知って「飯能で暮らしながら、家具づくりをしたい」と想い描くように。

卒業後、家具作りができる会社や工房への就職活動を始めました。

しかし、小坂さんがつくりたい「無垢材の家具」を手がけられるところは限られていました。加えて、経験や年齢がネックとなり、なかなか就職先が見つかりません。

ようやくたどり着いたのが「家具の街」として知られる福岡県大川市にある、無垢家具を手がける家具工房でした。

家族5人で大川市へ引っ越しして5年間、家具店や個人工房に勤務しながら、無垢家具、造作家具、店舗什器、木製雑貨など様々な木工の経験を積みました。

そして2016年、飯能市でコサカクラフトを始めます。

「飯能には木工作家さんもたくさんいらっしゃって、相談に乗ってくださいました。いくつかの工房でアルバイトをしながら、独立できそうな物件を探していたところ、不動産屋さんにこの場所を紹介してもらい、工房を開くことができました。駅からも近いので、遠方からのお客さんにも足を運んでいただいています」

デザインありきでつくるのは、挑戦でもある

コサカクラフトの家具は、お客さん一人ひとりの希望を聞きとり、丁寧につくり上げます。

シンプルながら細部までデザインにこだわった家具は、温かみがありながら、繊細でスタイリッシュ。

長年使い続けることで味わいが生まれ、愛着がわくようなもの作りを心がけています。

小坂さんの家具は、デザイナーである奥さまのデザインを元につくられています。必要な機能を満たしながらデザインの美しさを両立することは、職人としての挑戦でもあります。

お客さんのオーダーや、できあがったデザインをみて「どうやってつくったらいいのだろう」「このデザインはさすがに難しい」と感じることもあると言います。

しかし、工夫を重ねることで、一つの家具が完成する。この繰り返しで、つくることのできる作品の幅は広がっていきます。

特につくるのが難しい家具は「イス」なんだとか。形が繊細で工程が多く、座る人によって座り心地が違うため、完成まで特に集中力が必要なのです。

人気の家具は、スツール。持ち上げて見ると思った以上に軽く、家の中で気軽に動かしながらキッチンやリビングでちょこんと座るシーンが目に浮かびます。

コサカクラフトでは「家具を長く使っていただきたい」という思いから、家具の修理にも対応しています。

使わなくなった学習机や桐だんすを、今の暮らしにフィットする形でつくり替えたいというオーダーにも応えています。木製家具は、サステナブルですね。

学習机の奥行きをカットし、新たに引き出しを製作

「楽しい」ほうを選び続けてきた

小坂さんが「無垢材」の家具にこだわってきた理由は「楽しい」から。

「無垢材の家具は、加工するのに手間も時間もかかります。でも、つくっていてすごく楽しい。オーダー家具だと、デザインも自由ですし、ゼロからつくり上げるのが好きですね」

同じ種類の木でも、断面や重さ、質感など、別物というくらいそれぞれ個性があるそう。

木の個性と日々向き合いながら、形にしていく。同じ作業をしているようで、同じではない、常に新鮮な気持ちで楽しんでいます。

最近では、以前からずっとやりたいと考えていたオリジナル家具と小物を持参し、クラフトイベントへの出店を始めました。これも「すごく楽しい」と小坂さん。

「お客さんと直接お話できて、ダイレクトに反応を知ることができます。以前から小物づくりもやりたかったんですが、オーダー家具に追われていたこともあって…ようやく、やりたかったことが一つ形になってうれしいです」

最後に「これからやりたいこと」をお聞きすると、意外な言葉が返ってきました。

「いつか、キャンピングカーをつくりたいです。大きいワゴン車の中身を快適に過ごせる空間にアレンジして旅をしたいですね。いつかお客さんに提案できたらと思い描いています」

木工家具職人の小坂さんが手がけるキャンピングカー、想像しただけでも最高の旅の相棒になる気がします。

「ふだんからキャンプをするんですか?」と聞いてみると、笑いながら「いいえ」と。てっきり、キャンプがお好きなのかと思いました笑。

「今はほぼ毎日家具と向き合っている日々。お客さんとお話するのも家具をつくるのも、忙しいけど、楽しいので」と笑顔。

コサカクラフトの家具は。一生大切にできる宝物のような存在。HPやInstagramには、オーダー家具の作品がたくさん載っています。

つくり手が楽しみながら、丹精込めてつくった家具や小物は、きっと暮らしに彩りを添えてくれるでしょう。

写真:赤井恒平

関連情報

工房名
コサカクラフト
所在地
飯能市川寺420-2
TEL
042-978-8590
042-978-8590
HP
https://kosakacraft.jp/
Instagram
@kosakacraft

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記事を書いた人:
かたおか 由衣

リゾート運営会社勤務と専業主婦を経て、2020年からライター。2男1女の子育て中。

教育や子育て、エンタメ、キャリアなどの分野で執筆中。2023年春から飯能在住。転勤族。

  • ライター・編集者
  • 子どもたち学校に行ったり行かなかったり
  • 親子ともに飯能暮らしを楽しみたい!

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