飯能には数多くのアーティストや…
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使うほどにその魅力が増す革製品。革細工に魅了され、AKAI Factoryスタート時から入居して作品をつくり続ける、FILHOの宮尾塊多さんにお話を伺いました。
革という素材を生かす色合いを求めて
革になじむやわらかな風合いの刺繍や、あざやかなコバルトブルーの財布。FILHOの作品には色があふれています。
美大では油絵を専攻。色へのこだわりは、まっしろなキャンバスから革細工に変わっても続いています。
「鮮やかな色が好きなんです。絵の具そのままの色が出せるキャンバスとは違い、革では思い通りの発色が出ません。油絵の持つ強いイメージを求めて染色や刺繍の表現にたどり着きました」
材料費を抑えようと床革に目をつけ、風呂場で4日かけて染色したり、表面を起毛させて花柄を描き込んだり。おだやかな印象とはうらはらに、自分の思い描く表現に向かって労を惜しまず突き進む姿勢がうかがえます。
夢中で素材に向き合った経験から、革をイメージ通りに仕上げるための加工は体が覚えていると話す塊多さん。
「手をかけて作品をつくったときの達成感って、ハンパないんですよね。楽しくて楽しくて、まったくお金が貯まってないことに2年ほど気がつかないくらいでした笑」
販売スタイルの変更から見えてきたもの
現代アートの表現を続けるための収入源として、親友と始めた革細工販売。親友が別の道に進んだあとも、革裁ちや縫製など手作業にこだわり、有名デパートや大型店舗で展示販売するスタイルを続けていました。
しかし、2020年には本格的に新型コロナウイルスが蔓延。対面販売からの変更を余儀なくされます。
「最初の緊急事態宣言の1日前まで催事に出店していました。店舗全体の売上が前年対比20%とありえない数字が続き、このままでは生活ができなくなる、と肌で感じました」
ちょうどその頃に第一子が生まれ、収入の確保に迫られた塊多さん。先輩職人のアドバイスを受けて、オンライン販売の道を模索し始めます。製作工程も大幅な見直しが必要でした。
手縫いでは生産性が落ちるためにミシンを導入。革裁ちは革包丁からぬき型に変更しました。
手づくりのあたたかみは、もちろん維持しなければなりません。財布1つに4時間かけていた製作時間をどう短縮するか、試行錯誤の日々が続きました。
「あったらいいな」をカタチにしていく
対面販売とは異なる戦略が求められるオンライン販売。人気商品の移り変わりも早く、新商品のアイディア出しに余念がありません。商品を企画するとき、塊多さんが頼るのはひたすら客観的な視点です。
「自分の主観は信じていません。『あったらいいな』を叶えるような、手に取りやすいアイテムにほんの少しこだわりをプラスして、個性に変えています。たとえば、AKAI Factoryの赤井さんがつぶやく、製作側と購入側、両方の視点を踏まえた意見が参考になるんです」
学生のころ、夜の河原でひたすらドローイングを重ねていた青年は、2000個のキーホルダーをコツコツとつくり続ける革職人の道を歩んでいます。
「10の力があったら3の力で進む。そうすれば息切れせずに経験を積み重ねられるから」
対面での販売が難しくなった今も、購入者には手づくりの梱包材で発送。その姿勢は、塊多さんの「3の力」の奥深さを物語っています。
写真:赤井恒平
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記事を書いた人:
つるまゆ
長野県上田育ち→東京経由→埼玉県飯能暮らし/自然に囲まれた生活を愛して、2021年に移住/山と緑、自然食と手仕事、コーヒーを楽しむ生活
- 職業は経理&ライター
- 登山大好き
- 和服大好き
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