『天空の城ラピュタ』『火垂るの…
-
特集・連載
動きも表情もまさにカエルそのもの。なのに全身で泣いたり怒ったり笑ったりするカエルたちの感情はおどろくほど豊かです。
飯能在住の生物画家、かわしまはるこさんが作画を手がける「3びきのあまがえる」シリーズは現在、第1弾の『あまがえるのかくれんぼ』第2弾の『あまがえるのぼうけん』が出版されています。
擬人化された動物を描いた絵は世の中に無数にありますが、かわしまさんの描くカエルたちは、決してデフォルメし過ぎていないのに人間味があり、かつ生き物そのもののリアルさも伝わります。かわしまさんにお話を伺い、その不思議な絵の魅力に迫ります。
自宅で飼育するカエルたちの餌になる虫を取りに行くということで、かわしまさん行きつけの田んぼに同行させてもらいました。所有者に許可をもらい、いつもそこで動植物の観察や虫取りをしているそう。
田んぼでのかわしまさんはとってもアクティブ! 大きな網を使って巧みに虫を捕まえていきます。と、そこに小さなアマガエルを発見。
「この大きさだと、きっと最近上陸したカエルだと思います」かわしまさんからは次々生き物についての知識が飛び出し、まるで生物博士のようです。
さぞかし虫やカエルがお好きかと思いきや、意外にも一番好きな生き物は犬。ヘビが大の苦手で、ヤモリやイモリなどもちょっと苦手とか。
しかしよくよくお話を伺うと、幼稚園の頃は虫かごをバッタでいっぱいにするような女の子だったそうで、それを見たお母さんが目を回したというエピソードも。
見つけた生き物をその場で観察し、写真を撮ったりスケッチしたりします。そして必要があれば飼育しながら、よりじっくり観察するのがかわしまさんのスタイル。現在飼育しているカエルたちの観察日記は毎日つけ、ふとした動きや表情をスケッチしています。
かわしまさんの絵は生き物への観察の積み重ねから生まれます。でも、なぜそんなに手間や時間がかかる手法を選ばれたのでしょうか?
「それは師匠に出会ってしまったから」とかわしまさんは笑います。かわしまさんの師匠は生物画家で絵本作家の舘野鴻さん、あまがえるシリーズの作者です。
結婚を機に県外へ移住したかわしまさんですが、ライフスタイルの変化があり20年ほど前に飯能へ戻ってきます。そんな中、絵を仕事にしたいと模索していたとき、偶然、舘野さんと出会いました。
その出会いがきっかけで舘野さんを中心に絵を志す人の集まり「絵画講」が誕生し、今年で15年になるそうです。
2017年に小学館児童出版文化賞を受賞している舘野鴻さんは、時間をかけて自身の目で観察をした生き物の世界を、また時間をかけて細密に描くことで知られています(作品『つちはんみょう』『しでむし』『がろあむし』(偕成社)など)。
かわしまさんはそんな舘野さんから、生き物を描くために必要な観察眼を鍛えられたそうです。見ようとしないと見えないもの、知らなければ描けないものがあるのです。
もともと現在の作風を目指していたわけではないと言うかわしまさんですが「会う人会う人に影響を受けて、自分しか描けないものに出会えたことはとても幸運でした」かわしまさんの穏やかな笑顔は飯能の緑にとてもよく映えていました。
ご自宅のアトリエにお邪魔すると、数種類のカエルをはじめ、ミズカマキリや小さなエビなど様々な生き物の水槽が並んでいて、まるで小さな水族館のようです。飼育中のカエルたち、最年長はアマガエルの『えだのまめおさん』8才です。見つけたときは、枝豆ひと粒くらいの大きさだったそう。
毎日見ていると愛おしくなるという生き物たち。その愛情と、生き物のリアルをまっすぐ捉える生物画家の目。かわしまさんの魅力的な絵の秘密が少しわかった様な気がします。
絵本の作画の他に、挿絵などの仕事もしているかわしまさん。絵本と挿絵の違いについて伺うと「絵本は1ページずつめくっていって、それ1冊がまるごと一つの世界。描くのは大変ですが、やりがいがあります。今後はぜひ自分でも物語を書いてみたいと思っています」
かわしまさんの次回作は「3びきのあまがえる」シリーズ第3弾。今度はカエルたちが誕生し、成長する過程での過酷さも描かれるそうですが、どんな作品になるのでしょうか。かわしまさんの作、絵の作品も今から楽しみです。
かわしまさん作画の『あまがえるのかくれんぼ』『あまがえるのぼうけん』、お近くの書店でぜひ探してみてください。オンラインでもご購入いただけます。
- 「3びきのあまがえる」シリーズ第1弾『あまがえるのかくれんぼ』
- 「3びきのあまがえる」シリーズ第2弾『あまがえるのぼうけん』
写真:赤井恒平
関連記事/おすすめ記事